そのお相手、58歳歯医者さんとは、水曜日のランチにお会いしました。工務店の奥さんが「子どもの学校の用事って言っとくよ、とにかく行っておいで」と背中を押してくれて休みをくれたんです。水曜日がお休みということで、まずはランチでもといった感じのお誘いでしたね。
お約束したのが丸の内にできた新しいホテルのラウンジでした。見た目の印象?一言で言えば「銀髪の初老の男性」……かな。落ち着いた物腰でしたけど、少し暗い感じの人でした。そのまま最上階の中華へ行ったんです。フレンチは苦手とかいうことで、「ワインをお好みになると伺ったので、中華でワインというのはいかがでしょう」と言われました。
中華といったって、私が普段出前をとっているような「○○軒」とは大違いですよ。キョンシーみたいな給仕の人が足音ひとつたてず、サービスしてくれるようなとこです。その静寂のなかで、会話のはずまないことったら(涙)だってなにひとつ、共通する話題がないのです。
それでも、ほんとのことを言えば私は有頂天になってました。これまでの私は大学を出てから、ひたすら「お金」との闘いだったんです。夫はメーカー下請け工場勤務で薄給だったうえに、給料が入るとまずパチンコ、それから競輪が趣味って人でしたから、いつでも家計がピンチの連続でした。特に子どもが産まれてからは、私はしょっちゅう実家へ行ってはお金の無心をするより他なく、決して両親との仲が円満とは言い切れない私にとってそれはひどく辛いものでした。
だけど、目の前にいるこの歯医者の先生ともし「結婚」したのなら、まず子どもたちの学費の不安もなくなり、老後の心配もしなくていい。大きな家に住み、優雅にお稽古事などして時間をつぶして、物静かな初老先生のお世話に明け暮れるだけでいいのだ、とそう思ったら、それはものすごく魅力的に思えてならなかったのです。
なんという現金な女だと思われますか?夫が妻の財布からさえ千円札一枚でも引っこ抜いてパチンコへいく、その夫の背中に罵声を浴びさせ、脅えた子どもが泣く。その男から逃れて暮らしをはじめてみたら、フルタイムで経理をやって、帰宅してご飯を子どもたちに食べさせ、寝かせた後で深夜のファミレスで働かなくてはならない…。そうじゃなきゃ、子どもの塾代はおろか、新しい服さえ買えないんですから。
そんな暮らしを続けていますから、結婚相手は年収800万以上を求めてしまいます。婚活において男性の経済力はすべてにおいて優先されるものになってしまうのです。