その後、その先生とは二度ほどデートをしました。二回とも都内のホテルでのランチです。だけど、やっぱり会話ははずみませんでした。無口な人なのだと思い、私から積極的に話しかけてみようと思ったのですが、なかなかうまくいかないのです。そして、先生は口を開けば、「お子さんの教育についてはこれからはどう考えていますか」 「あなたは結婚してから家庭に入りますか、仕事を続けたいですか」「いずれ私を介護するとなったらどうお考えですか」……まるで問診票をチェックするように、淡々と質問を繰り返すのです。
まだ数回しか会っていないのにもかかわらず、結婚後や老後、さらには介護という言葉が出てきたことに戸惑どってしまい、私は何と答えてよいのか分からず、当たり障りのない返答しかすることができませんでした。
普段と違う格好をして出かけ、帰宅すると疲れてそのままソファに座って考え事をしている私の変化に気付いたのはやはり娘でした。「お母さん、最近なんかヘンだよ。」そう言われて、娘にだけはある程度打ち明けたほうがいいのではないかととっさに思って、あまり深く考えもせず「実はお母さん、婚活してるんだよね」と口にしたんです。
娘は「こんかつ?」と意味がわからず繰り返し、それから明らかに嫌悪の表情を浮かべたんです。「お母さん、結婚したいわけ? なんで?」ストレートな娘の質問に、私は答える術がありません。「でも、なんかね、ちょっと良さそうな人とお会いしたからね」「相手がどうのじゃなくて、お母さん、結婚したいの?」「まあ、ね」「なんで?」「なんでって……」
相手の人が歯医者さんで、お金持ちなんだよ。ちょっと年齢は上だしおとなしい人だけど、ちゃんとした人そうだよ。そう答えた私に娘は軽蔑、といったまなざしを投げてきたんです。「相手なんかどうでもいい。お母さん、懲りてないんだ、結婚したいんだって思っただけ」
そう言い捨てて、娘は自分の部屋のドアをものすごい音をたてて閉めてしまいました。もう短大生になり、自分の人生をしっかり計画しているように見えた娘ならすぐに理解してくれるだろうと思っていた私にはショックな事件でした。