
実はKさんとの交際が続くなかでも、わたしは婚活サイトを見たり小規模のサロン的な婚活パーティーに参加してたんです。もっと条件のいい人がいるかもしれない、と思って。奥さんはそんな私の不誠実な行動を見抜いていたんですね。
数日後、Kさんにお願いして、Kさんの母親に会わせてもらいました。Kさんのお母さんは中学校の教師をしていた人らしく、きちっとした人でした。「うちの息子のどこがよいのでしょうか」まっすぐに聞かれたとき、Kさんの真っ正直なところがお母さんからきたものなのだなとわかりました。なんとなく、わたしもその真っすぐさに打たれて、正直に答えていたんです。
「最初は条件で相手を見ていました。今も、見ている部分はあるかもしれません。息子さんはきちんとした暮らしのできる誠実な人で、固い職業についていることなど私の条件にあっていると思ったのです。でも、ちょっと違うと今は思い始めています。確かにこういう人がいいという希望はありましたが、実際にお会いして交際をさせていただくなかで、どんな仕事をしている人かとか、私の子どもを大事にしてくれそうか、ということより、もっとなんていうか……」
思わず言葉がとぎれて、沈黙がありました。「なんていうか、ただKさんと一緒になれたらいいだろうなって思うようになっていたんです」一気に言ってしまうと、なぜかものすごい開放感を感じました。そしたら、Kさんの母親が真面目な顔つきで、「息子もあなたのことがとても好きだと言っています。私も息子の嫁になるひとにはいろいろと条件をつけてきた昔があります。でも、条件よりも大事なのは気持ちなのだとようやくわかってきました。
息子の家族になるということは、あなたのお子さんはわたしの孫になります。私は子どもが好きで教師をしていました。新しく孫ができるのは楽しみです」とつとつと語ってくれたのです。
わたしは驚きとともにうれしさで胸がいっぱいになりました。「まだプロポーズもしていないのに、お母さんが先回りしたら困るよ」隣に座っていたKさんが恥ずかしそうに笑って言いました。